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Feb 10, 2026
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2026年、強いブランドを作るために Vol.1: 「収益を安定させる装置」としてブランドを捉え直す

2026年、強いブランドを作るために Vol.1: 「収益を安定させる装置」としてブランドを捉え直す

企業のブランド構築に伴走するI&COが、「2026年、強いブランドを作るために。」というテーマのもと、財務、コミュニケーション、インターナルブランディングの3つの視点から考察したシリーズ記事をお届けします。ブランドはどのように生まれ、事業や組織の中にどのように組み込まれていくのか。この問いを、シリーズを通じて紐解いていきます。

なぜ、ブランドの話は経営会議で止まってしまうのか

私はこれまでのキャリアで、投資・財務の領域、経営コンサルティング、そしてブランド構築の現場に関わってきました。その中で強く感じるのは、ブランドというテーマに関心を持ち、社内で熱心な議論を交わすような会社であっても、議論の場が経営会議に移った瞬間にトーンが変わる、ということです。

「ブランドが重要なのはわかる。でも、それはいくらの価値なのか?」
「この投資は、どれくらいの期間で回収できるのか?」

ここで言葉が止まるケースが非常に多く、おのずと優先順位が下がりやすい。これは特定の会社の話ではなく、多くの企業で起こっていることです。

I&COではブランドを「信頼による差別化」と定義していますが、私自身の専門性に即してあえて別の表現をするならば、ブランドは収益を安定させる装置であると言えます。こう捉えることで、ブランドは投資判断や事業計画の中心に据えるべき、明確な経営テーマになるのです。

値引きに頼らない売上が、ブランドの実務的な効き目

私はクライアントの事業計画レビューに入るとき、まず「この売上は割引なしで成立していますか?」と聞くことがあります。ブランドが効いている、つまり顧客に信頼され選ばれ続ける事業は値引きに頼る必要がないのに対し、効いていない事業は、常に何らかの割引やキャンペーン、ポイント還元といった販促施策を打ち続けています。こうした違いは、短期的な売上の数字には表れにくいものの、利益率やキャッシュフローの安定性という形で、確実に財務に影響を及ぼします。

たとえば同じような性能のスニーカーが2足あったとします。一つは初めて名前を聞くもの、もう一つは長年ランナーに使われてきたもの。多くの人は、少し高くても後者を選びます。なぜか。失敗したくないからです。

私はこれを「リスク回避コストを先に払ってもらえる力」と呼んでいます。つまり、顧客が「この商品なら信頼できる」と感じることによって選んでもらえる力です。これこそが、ブランドの実務的な効き目です。

選ばれ続ける会社は、値下げしなくても売れやすく、リピートされやすく、口コミが起きやすい。結果として、将来の売上を読みやすくなります。財務の言葉で言えば、キャッシュフローのブレが小さくなる。ブランドとは、実はここに効いてくるのです。

のれんは突然生まれるのではなく、日々の設計で育つ

会計の世界に「のれん」という言葉があります。会社を買収したときに、帳簿上の価値より高く評価された差額のことです。ただ、財務の現場にいた立場から言うと、のれんは買収の瞬間に突然生まれるものではありません。外から見えにくかった価値が、買収というタイミングで初めて数字として可視化されたにすぎないのです。

私はM&Aに関わる議論の場で「なぜ、この会社は純資産以上の値段で評価されるのか?」という問いに何度も立ち会ってきました。その答えはほぼ共通しています。組織の判断がそろっており、価格が崩れにくく、顧客が離れにくい。つまり、信頼の再現性があるということです。

たとえば、いつ行っても味やサービスが安定しているレストランがあります。接客も丁寧で、説明や値段もブレない。そういう店は「あそこなら大丈夫」と思われます。信頼が再現され続けることによって差別化されている状態こそが、強いブランドであり、のれんの正体です。高級店である必要はありません。派手な広告よりも、毎日のオペレーションを積み重ねることのほうが、よほど企業価値に効いています。

実際、I&COが支援したASICSのブランドづくりにおいても、ここを非常に重視していました。ASICSさんとご一緒する中で印象的だったのは、「ブランド力 = 好かれること」ではなく、「ブランド力 = 一貫性をコントロールできている状態」と捉えていることです。どのチャネルで売るのか、どの価格で売るのか、どんな体験で届けるのか。ここを自分たちで設計し、守る。短期の売上のために安易に値引きに流れず、体験の質を崩さない。

多くの企業において、現場の議論では「売上を立てる」と「価値を守る」がぶつかりますが、ASICSはその判断基準を「短期の売上」ではなく「ブランド価値の維持」にしっかり置いていました。温度調整されたサーバールームのように、外が暑くても寒くても、中の温度は一定に保つ。これが長期的なブランド構築に必要なコントロールです。

推測ですが、この「コントロールされた一貫性」がある企業ほど、価格プレミアム(競合より高い価格でも選ばれる力)や顧客の継続率が高くなりやすく、結果として利益率が安定し、財務的にも強い構造になります。

ブランドを「感覚」ではなく「経営の数字」につなげる

ブランドの価値や効果は測るのが難しい、とよく言われます。ただ私の観点から見ると、測れないのではなく、測り方を決めていないだけです。ブランドの効果は売上の「量」ではなく「質」に表れます。具体的には以下のような指標を見ることで、ブランドの状態はかなり可視化できます。
- 値引きしなくても売れているか  
- 顧客のリピート率は高いか  
- 紹介で来る顧客は増えているか  
- 指名検索は増えているか  
- 直販の比率は上がっているか

私はプロジェクトの初期に、これらを必ず確認します。すると、ブランドが効いている事業と、広告で押している事業の違いがはっきり出ます。例えるなら、筋肉で走っているのか、ドーピングで走っているのかの違いです。前者は持続するのに対し、後者は広告を止めた途端に売上が一気に落ちます。

ここで重要な役割を担うのが、経営企画部門や財務部門です。従来、ブランドづくりは特定の部署が中心となって推進するものと捉えられてきましたが、それを経営の意思決定レベルに引き上げるには、経営企画や財務の関与が不可欠です。中期計画に組み込み、投資回収の仮説を置き、部門横断で判断基準をそろえる。いわば、ブランドを予算表の中に入れる作業です。

I&COではブランド構築のプロセスを「フライホイール(はずみ車)」、つまり循環する連鎖反応として捉えています。一貫した判断軸のもとで企業がプロダクトを生み、そのプロダクトが顧客を惹きつけ、顧客の信頼が積み上がって差別化され、ブランドとなる。そうして築かれたブランドが会社を次の段階へと引き上げ、新たなプロダクトを生み出していく。この回転が起きると、広告費を増やさなくても前に進むようになります。最初は重いけれど一度回ると止まりにくい、大型ホイールのようなものです。

実務では、この循環のどこに摩擦や断絶があるのかを見極め、その解消に向けた設計を行うことが多くなります。判断軸が定まっていないのか、その判断軸をプロダクトに体現できていないのか、顧客との接点に一貫性がなく信頼が積み上がっていないのか。この見極めと再設計を通じてフライホイールを機能させることが、ブランド構築の実質的な仕事です。

2026年は、ブランドを「表現活動」として扱う会社と、「経営インフラ」として扱う会社で、はっきり差がつきます。のれんはあとから付いてくるものではなく、先に育てるもの。そう捉えた企業から、企業価値は伸びていくと見ています。

著者:間澤 崇(まざわ たかし)

I&CO APAC COO。ニッセイアセットマネジメントでの資産運用業務を経て、2014年よりアクセンチュアのストラテジーグループに参画。銀行や証券会社、ペイメント会社など金融業のコンサルティングを手がけた他、小売・通信業の新規事業立案や、通信・エネルギー業の異業種参入などを支援。2019年7月にレイ・イナモト、高宮範有とI&CO Tokyoを設立し、共同代表に就任。新規事業の開発や、それに伴う事業戦略立案、既存事業の立て直しを担う。

【携わったプロジェクト】
- OneASICS(ASICS)
- Next-Generation ATM(ローソン銀行)
- MEIRI Whisky Reborn(明利酒類)
ほか


「2026年、強いブランドをつくるために。」の他の記事
- Vol.2: 「Don'ts」を設計し、判断の輪郭を描く
- Vol.3: 社内の「人」が担う最初の一歩

企業のブランド構築に伴走するI&COが、「2026年、強いブランドを作るために。」というテーマのもと、財務、コミュニケーション、インターナルブランディングの3つの視点から考察したシリーズ記事をお届けします。ブランドはどのように生まれ、事業や組織の中にどのように組み込まれていくのか。この問いを、シリーズを通じて紐解いていきます。

なぜ、ブランドの話は経営会議で止まってしまうのか

私はこれまでのキャリアで、投資・財務の領域、経営コンサルティング、そしてブランド構築の現場に関わってきました。その中で強く感じるのは、ブランドというテーマに関心を持ち、社内で熱心な議論を交わすような会社であっても、議論の場が経営会議に移った瞬間にトーンが変わる、ということです。

「ブランドが重要なのはわかる。でも、それはいくらの価値なのか?」
「この投資は、どれくらいの期間で回収できるのか?」

ここで言葉が止まるケースが非常に多く、おのずと優先順位が下がりやすい。これは特定の会社の話ではなく、多くの企業で起こっていることです。

I&COではブランドを「信頼による差別化」と定義していますが、私自身の専門性に即してあえて別の表現をするならば、ブランドは収益を安定させる装置であると言えます。こう捉えることで、ブランドは投資判断や事業計画の中心に据えるべき、明確な経営テーマになるのです。

値引きに頼らない売上が、ブランドの実務的な効き目

私はクライアントの事業計画レビューに入るとき、まず「この売上は割引なしで成立していますか?」と聞くことがあります。ブランドが効いている、つまり顧客に信頼され選ばれ続ける事業は値引きに頼る必要がないのに対し、効いていない事業は、常に何らかの割引やキャンペーン、ポイント還元といった販促施策を打ち続けています。こうした違いは、短期的な売上の数字には表れにくいものの、利益率やキャッシュフローの安定性という形で、確実に財務に影響を及ぼします。

たとえば同じような性能のスニーカーが2足あったとします。一つは初めて名前を聞くもの、もう一つは長年ランナーに使われてきたもの。多くの人は、少し高くても後者を選びます。なぜか。失敗したくないからです。

私はこれを「リスク回避コストを先に払ってもらえる力」と呼んでいます。つまり、顧客が「この商品なら信頼できる」と感じることによって選んでもらえる力です。これこそが、ブランドの実務的な効き目です。

選ばれ続ける会社は、値下げしなくても売れやすく、リピートされやすく、口コミが起きやすい。結果として、将来の売上を読みやすくなります。財務の言葉で言えば、キャッシュフローのブレが小さくなる。ブランドとは、実はここに効いてくるのです。

のれんは突然生まれるのではなく、日々の設計で育つ

会計の世界に「のれん」という言葉があります。会社を買収したときに、帳簿上の価値より高く評価された差額のことです。ただ、財務の現場にいた立場から言うと、のれんは買収の瞬間に突然生まれるものではありません。外から見えにくかった価値が、買収というタイミングで初めて数字として可視化されたにすぎないのです。

私はM&Aに関わる議論の場で「なぜ、この会社は純資産以上の値段で評価されるのか?」という問いに何度も立ち会ってきました。その答えはほぼ共通しています。組織の判断がそろっており、価格が崩れにくく、顧客が離れにくい。つまり、信頼の再現性があるということです。

たとえば、いつ行っても味やサービスが安定しているレストランがあります。接客も丁寧で、説明や値段もブレない。そういう店は「あそこなら大丈夫」と思われます。信頼が再現され続けることによって差別化されている状態こそが、強いブランドであり、のれんの正体です。高級店である必要はありません。派手な広告よりも、毎日のオペレーションを積み重ねることのほうが、よほど企業価値に効いています。

実際、I&COが支援したASICSのブランドづくりにおいても、ここを非常に重視していました。ASICSさんとご一緒する中で印象的だったのは、「ブランド力 = 好かれること」ではなく、「ブランド力 = 一貫性をコントロールできている状態」と捉えていることです。どのチャネルで売るのか、どの価格で売るのか、どんな体験で届けるのか。ここを自分たちで設計し、守る。短期の売上のために安易に値引きに流れず、体験の質を崩さない。

多くの企業において、現場の議論では「売上を立てる」と「価値を守る」がぶつかりますが、ASICSはその判断基準を「短期の売上」ではなく「ブランド価値の維持」にしっかり置いていました。温度調整されたサーバールームのように、外が暑くても寒くても、中の温度は一定に保つ。これが長期的なブランド構築に必要なコントロールです。

推測ですが、この「コントロールされた一貫性」がある企業ほど、価格プレミアム(競合より高い価格でも選ばれる力)や顧客の継続率が高くなりやすく、結果として利益率が安定し、財務的にも強い構造になります。

ブランドを「感覚」ではなく「経営の数字」につなげる

ブランドの価値や効果は測るのが難しい、とよく言われます。ただ私の観点から見ると、測れないのではなく、測り方を決めていないだけです。ブランドの効果は売上の「量」ではなく「質」に表れます。具体的には以下のような指標を見ることで、ブランドの状態はかなり可視化できます。
- 値引きしなくても売れているか  
- 顧客のリピート率は高いか  
- 紹介で来る顧客は増えているか  
- 指名検索は増えているか  
- 直販の比率は上がっているか

私はプロジェクトの初期に、これらを必ず確認します。すると、ブランドが効いている事業と、広告で押している事業の違いがはっきり出ます。例えるなら、筋肉で走っているのか、ドーピングで走っているのかの違いです。前者は持続するのに対し、後者は広告を止めた途端に売上が一気に落ちます。

ここで重要な役割を担うのが、経営企画部門や財務部門です。従来、ブランドづくりは特定の部署が中心となって推進するものと捉えられてきましたが、それを経営の意思決定レベルに引き上げるには、経営企画や財務の関与が不可欠です。中期計画に組み込み、投資回収の仮説を置き、部門横断で判断基準をそろえる。いわば、ブランドを予算表の中に入れる作業です。

I&COではブランド構築のプロセスを「フライホイール(はずみ車)」、つまり循環する連鎖反応として捉えています。一貫した判断軸のもとで企業がプロダクトを生み、そのプロダクトが顧客を惹きつけ、顧客の信頼が積み上がって差別化され、ブランドとなる。そうして築かれたブランドが会社を次の段階へと引き上げ、新たなプロダクトを生み出していく。この回転が起きると、広告費を増やさなくても前に進むようになります。最初は重いけれど一度回ると止まりにくい、大型ホイールのようなものです。

実務では、この循環のどこに摩擦や断絶があるのかを見極め、その解消に向けた設計を行うことが多くなります。判断軸が定まっていないのか、その判断軸をプロダクトに体現できていないのか、顧客との接点に一貫性がなく信頼が積み上がっていないのか。この見極めと再設計を通じてフライホイールを機能させることが、ブランド構築の実質的な仕事です。

2026年は、ブランドを「表現活動」として扱う会社と、「経営インフラ」として扱う会社で、はっきり差がつきます。のれんはあとから付いてくるものではなく、先に育てるもの。そう捉えた企業から、企業価値は伸びていくと見ています。

著者:間澤 崇(まざわ たかし)

I&CO APAC COO。ニッセイアセットマネジメントでの資産運用業務を経て、2014年よりアクセンチュアのストラテジーグループに参画。銀行や証券会社、ペイメント会社など金融業のコンサルティングを手がけた他、小売・通信業の新規事業立案や、通信・エネルギー業の異業種参入などを支援。2019年7月にレイ・イナモト、高宮範有とI&CO Tokyoを設立し、共同代表に就任。新規事業の開発や、それに伴う事業戦略立案、既存事業の立て直しを担う。

【携わったプロジェクト】
- OneASICS(ASICS)
- Next-Generation ATM(ローソン銀行)
- MEIRI Whisky Reborn(明利酒類)
ほか


「2026年、強いブランドをつくるために。」の他の記事
- Vol.2: 「Don'ts」を設計し、判断の輪郭を描く
- Vol.3: 社内の「人」が担う最初の一歩

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