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2026年、強いブランドを作るために Vol.6: あなたの組織とトップの「性格」が鍵になる

2026年、強いブランドを作るために Vol.6: あなたの組織とトップの「性格」が鍵になる

企業のブランド構築に伴走するI&COが、「2026年、強いブランドを作るために。」というテーマのもと、財務、コミュニケーション、インターナルブランディングの3つの視点から考察したシリーズ記事をお届けします。ブランドはどのように生まれ、事業や組織の中にどのように組み込まれていくのか。この問いを、シリーズを通じて紐解いていきます。


著者:近藤 まり子(こんどう まりこ)

I&CO Tokyo 代表。Publicis Groupe Japan / ビーコンコミュニケーションズ、博報堂アイ・スタジオを経て、2021年4月にI&CO Tokyoに参画。2024年7月より現職。企業のパーパス・ビジョン策定とその後の実行フェーズの支援、日本・アジアとグローバルの相互展開を強みとする。


「自社のブランド価値を向上させる」「強いブランドにする」。経営層やリーダー層に課せられるゴールの一つだ。だが、社名・サービス名やロゴやカラーを変える「だけ」では、ブランドの強さは変化しない。

I&COでは、ブランドを「信頼による差別化」と定義している。ブランドとは企業がつくるものではなく、顧客の信頼が積み重なることで結果として生まれるもの、と捉えている。

では、その信頼はどこから来るのか。企業の目指す北極星が定まり、チームがその方向に動き、プロダクトやサービスに反映され続ける。顧客はそのファクトに触れ続けることで、信頼を蓄積していく。そうしてはじめて、ブランドが顧客の中に生まれ、育っていく。

言い換えるなら、ブランド構築の第一歩は、コミュニケーションより先に、組織の内側にある。概要は「2026年、強いブランドを作るために Vol.3: 社内の「人」が担う最初の一歩」でいくつかの事例とともにお伝えした。

この記事では、更に具体的な、組織が動き出すためのアクション設計の鍵をお伝えしたいと思う。私たちが多くの企業のブランド構築プロジェクトに携わってきた経験から言えるのは、取るべきアクションは一律に設計できないということだ。AIに聞けば、教科書的に網羅されたチェックリストは返してくれるだろう。だが、そこから一歩進め、組織と現場に相対している我々だからこそ考えて実行できることがある。

重要なのは、2つの軸:「トップの性格」と「組織の性格」だ。「トップの意思決定スタイル」——ビジョンが強く、トップダウンで物事が決まるのか、それとも多くの意見を集約しながら合意形成を重視するのか。もう1つは「組織のコミュニケーションスタイル」——理念や物語で語られやすいのか、数字や目標で語られやすいのか。この2軸の組み合わせによって、最初に踏み出すべき一歩は変わってくる。

1.  トップの性格

1-1. ビジョンが強いトップ——届ける仕組みをつくる

創業者や創業社長に多いタイプだ。目指す世界観が明確で、トップダウンで物事が決まっていく。トップがいる限り、ブランドの核となる方向性がぶれにくいという大きな強みがある。

このタイプで特に効いてくるのが、ビジョンを組織の隅々まで届け続ける仕組みだ。トップの頭の中にある構想が、経営層から現場まで一貫して共有されているとき、プロダクトやサービスの体験に自然と一貫性が生まれる。顧客の信頼は、そうした一貫性の積み重ねから育っていく。

Anthropicのケースは、その一つの形を示している。CEOのDario Amodei氏は、自分の時間の40%を企業カルチャーの構築に使っていると語っている。具体的な取り組みが2つある。

1つは、DVQ(Dario Vision Quest)と呼ばれる全社セッションだ。2週間に1回、Dario自身が詳細な資料を準備し、約1時間、全社員に向けて話す。プロダクト戦略から地政学、AIのランドスケープまで、テーマは広い。全員が手を止めて参加するよう設計されており、対面での参加も可能だ。頻度の高さと内容の具体性が、このセッションの核心にある。(余談だが、DVQはDario氏本人が名付けたわけではなく、社内の通称がそのまま使われているとのこと)

もう1つは、Slackのノートブックチャンネルだ。Dario氏を含むリーダーたちがそれぞれチャンネルを持ち、気になった記事や考えを自由に投稿する。それに対して社員が意見することが推奨されており、実際にCEOの投稿に対して率直な反対意見が投稿され、ディスカッションになることもある。

また、日本を代表するグローバルブランドであるユニクロ(ファーストリテイリング)においては、理念教育が仕組み化され、頻度や目的別に複数のアプローチでルーティンに組み込まれている。

チームで経営を実行するためには、会社と個人のビジョンがマッチすることが大切だと思います。この一年間で延べ11万人の社員が会社の理念教育を受けています。これまでは創業者の柳井が、こうした理念を伝えてきましたが、現在は、柳井だけでなく、上席執行役員、事業責任者も主体となり、伝える仕組みが各国・各地域で定着しつつあり ます。北米、欧州、グレーターチャイナ、日本、東南アジアなどの各地域で、UMC(Uniqlo Management Candidate)と呼ばれる経営幹部候補の採用をしています。UMCの 採用にはグローバルで年間約150万人の学生から応募が あり、当社の理念に共鳴・共感いただいた約1,000人が、毎年入社しています。入社後は、年2回実施しているFR コンベンション、各地域のローカルコンベンション、毎月の月度朝礼、各部門での理念教育があります。経営理念を 日常の業務で実践するために「ダイレクトセッション」も あり、自分が直面している経営課題に対し、どう行動すべきかを、直接、経営者から学ぶことができます。こうした教育を繰り返し、現場で実践することが重要です。(INTEGRATED REPORT 2024


オープンであること。頻度が高く、目的が明確で、具体的であること。この3つが、トップのビジョンを組織に届け続けるための条件だと言えそうだ。

1-2.合意形成を重視するトップ——決め方そのものを設計する

日本の大企業に多いとされるタイプだ。多様な声を聴き、合意を形成しながら意思決定していく。現場の声が反映されやすく、実行フェーズでの摩擦が少ないという強みがある。

一方で、2つの点に気をつけたい。

1つは、ビジョンの輪郭だ。多くの意見を丁寧に取り込もうとするほど、言葉は丸くなりやすい。どこかで聞いたような、誰も傷つけないビジョンになってしまうことがある。輪郭のあるビジョンをつくるためには、意見を集める設計と同じくらい、何を選び取るかの設計が重要になる。

もう1つは、スピードだ。少し横に逸れるが、AIが処理できるタスクの長さは、7ヶ月ごとに倍増し続けているというスタンフォード大学による研究がある(METR研究、2024年)。変化の速い環境において、丁寧な合意形成のプロセスをいかにスピードと両立させるかは、これからより大きなテーマになるだろう。

大切なのは、合意形成そのものをやめることではなく、決め方を設計することだ。

グローバルで30万人を超える社員を擁するSiemens社のCEO Roland Busch氏は、戦略面の意思決定においては「綺麗に整ったパワーポイントは用意させず、オープンな議論の場を設け、なるべく多くの意見を聞く。一方で、意見を出すことが推奨されていることも含めて、プロセス自体は構造化されている」と紹介している。

戦略を決断する際は、できる限り多くの専門家を巻き込み、会議室でその声に耳を傾けます。あえて完璧なプレゼン資料を求めないこともあります。大切なのは中身だからです。経営陣のあいだでは率直な議論の文化を育み、時には社外のネットワークにも知恵を借りながら判断を下す。誰もが意見を持ち寄り、声を上げられる環境を大切にしていますが、プロセスそのものは構造化されています。より良い決断は、そこから生まれると信じています。


I&COでも、企業のパーパスやビジョンの設計を支援する際には、その方針の内容はもちろんだが「どのステークホルダーをどう巻き込むか」についても、企業の方と話し合うことを大切にしている。

ご支援させていただいたパナソニック コネクトのパーパス・ストーリー策定においては、グローバルのステークホルダーを巻き込んで最終化していくプロセスを取った。事業所数で言えば日本国内(14事業所)よりも海外(23事業所)の方が多く、海外事業も重要視しているためだ。

パーパスを英語にするだけでなく、背景などを説明するための「アワーストーリー(Our Story)」も日本語と英語でつくりました。各地域のトップとマーケティングリーダーをメンバーに、ディスカッションを繰り返したのですが、当初はなかなかまとまりませんでした。アメリカチームが「OK」と言っても、ヨーロッパチームが「NO」と言ったり。同じ英語圏でも文化的背景が違うと、受け取り方が違いました。最終的には全地域が同意するものができ、各地域とも自分たちがつくったパーパス、アワーストーリーとして納得してくれました。(山口有希子CMO)


長く所属してきた役員、今後を担うリーダー候補社員、独自技術を磨いてきたスター社員、M&Aした企業のリーダーなど、実行フェーズに移った時に味方にすべき方は多い。だからこそ、誰が最終決定者なのかを全員が理解した上で、プロセスをシンプルに設計する。ファシリテーションは、トップが担わなくていい。力関係や組織の文脈をよく理解している人間が、意思決定を前に進める役割を担う。そして、最後に決めるのはトップだという共通認識を共有し続ける。この構造が機能すると、多様な声を生かしながら、スピードも確保しやすくなる。

2. 組織の性格

2-1.理念で語る組織——言葉に、数字の骨格を通す

ビジョンや理念を言葉で語ることが得意な組織もある。エモーショナルな言葉は、人の心を動かす強みがある。

さらにそこに数字の骨格が通ると、ビジョンは一段と機能しはじめる。個々人やチームの中で「自分が何をすべきか」の解像度が上がり、行動に結びつきやすくなるのだ。

キリングループの長期経営構想「Innovate 2035!」はその好例だ。ビジョンの中に、具体的な方向性が明示されている。現在、3つの事業領域のうち酒類が利益で1位を占める構造を、酒類・飲料・ヘルスサイエンス・医薬の4領域で同水準にしていくというものだ。2035年というタイムラインとともに具体的な目標数値が示されることで、各事業部が「自分たちは何をすべきか」を考えやすくなる。

理念と数字は、対立するわけではなく、両方あることで実行に移されやすくなる。

2-2. 数字で語る組織——存在意義をエモーショナルに語る

逆のケースもある。金融業など、数字でコミュニケーションすることが文化に根づいた組織だ。KPIが明確で、目標達成に向けた動きが速い。そこにエモーショナルなビジョンが加わると、社員の中に「なぜこの会社で働くのか」という問いへの答えが育ちやすくなる。それが誇りになり、顧客との接点に現れてくる。

少し前だが、Mastercardのケースは示唆に富む。CEOを11年間務めたAjay Banga氏は、在任中に時価総額を約30ドルから350ドル超に成長させた実績を持つ。金融決済の会社として、目標が数字で語られるのは当然とも思えるが、彼が掲げたビジョンは「World Beyond Cash(現金を超えた世界へ)」という、戦略的かつエモーショナルな言葉だった。

当時、世界の決済の約85%は現金で行われていた。その現実を起点に、デジタル決済の可能性を社会に広げていくという大きな物語を、10年以上語り続けた。社員に「Mastercardのビジョンは?」と聞けば、全員が即座に答えられるほどの浸透度だったという。

数字が得意な組織ほど、存在意義をエモーショナルに語ることで相乗効果が生まれていく。

終わりに:自社の「性格」を見極め、最初の一歩を踏み出す

ここまで4つのタイプを見てきたが、整理してみると:
- ビジョンが強いトップなら、届ける仕組みをつくる
- 合意形成型のトップなら、決め方そのものを設計する
- 理念で語る組織なら、数字の力を持たせる
- 数字で語る組織なら、戦略的なストーリーを語る

どのタイプも、それぞれに強みがある。そして現実には、この4つの類型へきれいに分かれないこともあるだろう。トップの意思決定スタイルも組織のコミュニケーション文化も、事業の状態やフェーズによって変化していく可能性がある。重要なのは、現場を知り、自社の特徴を客観的に見極めた上で、次の一手を考えることだ。内側にいると、自分の組織を客観視するのはなかなか難しい。そういうときこそ、外部の目線を借りる価値がある。

企業の目指すものが、心の面でも数字の面でも、組織の隅々に行き渡ったとき、プロダクトやサービスに反映されていく。日々の小さな行動や、顧客との向き合い方に現れていく。その積み重ねが、結果としてブランドになる。

あなたの組織は、どんな性格だろうか。そして今、どんな一歩が踏み出せそうだろうか。


「2026年、強いブランドをつくるために。」の他の記事
- Vol.4: 信頼の循環を「設計する」という発想
- Vol.5: 泡盛が回す「ブランドのフライホイール」

企業のブランド構築に伴走するI&COが、「2026年、強いブランドを作るために。」というテーマのもと、財務、コミュニケーション、インターナルブランディングの3つの視点から考察したシリーズ記事をお届けします。ブランドはどのように生まれ、事業や組織の中にどのように組み込まれていくのか。この問いを、シリーズを通じて紐解いていきます。


著者:近藤 まり子(こんどう まりこ)

I&CO Tokyo 代表。Publicis Groupe Japan / ビーコンコミュニケーションズ、博報堂アイ・スタジオを経て、2021年4月にI&CO Tokyoに参画。2024年7月より現職。企業のパーパス・ビジョン策定とその後の実行フェーズの支援、日本・アジアとグローバルの相互展開を強みとする。


「自社のブランド価値を向上させる」「強いブランドにする」。経営層やリーダー層に課せられるゴールの一つだ。だが、社名・サービス名やロゴやカラーを変える「だけ」では、ブランドの強さは変化しない。

I&COでは、ブランドを「信頼による差別化」と定義している。ブランドとは企業がつくるものではなく、顧客の信頼が積み重なることで結果として生まれるもの、と捉えている。

では、その信頼はどこから来るのか。企業の目指す北極星が定まり、チームがその方向に動き、プロダクトやサービスに反映され続ける。顧客はそのファクトに触れ続けることで、信頼を蓄積していく。そうしてはじめて、ブランドが顧客の中に生まれ、育っていく。

言い換えるなら、ブランド構築の第一歩は、コミュニケーションより先に、組織の内側にある。概要は「2026年、強いブランドを作るために Vol.3: 社内の「人」が担う最初の一歩」でいくつかの事例とともにお伝えした。

この記事では、更に具体的な、組織が動き出すためのアクション設計の鍵をお伝えしたいと思う。私たちが多くの企業のブランド構築プロジェクトに携わってきた経験から言えるのは、取るべきアクションは一律に設計できないということだ。AIに聞けば、教科書的に網羅されたチェックリストは返してくれるだろう。だが、そこから一歩進め、組織と現場に相対している我々だからこそ考えて実行できることがある。

重要なのは、2つの軸:「トップの性格」と「組織の性格」だ。「トップの意思決定スタイル」——ビジョンが強く、トップダウンで物事が決まるのか、それとも多くの意見を集約しながら合意形成を重視するのか。もう1つは「組織のコミュニケーションスタイル」——理念や物語で語られやすいのか、数字や目標で語られやすいのか。この2軸の組み合わせによって、最初に踏み出すべき一歩は変わってくる。

1.  トップの性格

1-1. ビジョンが強いトップ——届ける仕組みをつくる

創業者や創業社長に多いタイプだ。目指す世界観が明確で、トップダウンで物事が決まっていく。トップがいる限り、ブランドの核となる方向性がぶれにくいという大きな強みがある。

このタイプで特に効いてくるのが、ビジョンを組織の隅々まで届け続ける仕組みだ。トップの頭の中にある構想が、経営層から現場まで一貫して共有されているとき、プロダクトやサービスの体験に自然と一貫性が生まれる。顧客の信頼は、そうした一貫性の積み重ねから育っていく。

Anthropicのケースは、その一つの形を示している。CEOのDario Amodei氏は、自分の時間の40%を企業カルチャーの構築に使っていると語っている。具体的な取り組みが2つある。

1つは、DVQ(Dario Vision Quest)と呼ばれる全社セッションだ。2週間に1回、Dario自身が詳細な資料を準備し、約1時間、全社員に向けて話す。プロダクト戦略から地政学、AIのランドスケープまで、テーマは広い。全員が手を止めて参加するよう設計されており、対面での参加も可能だ。頻度の高さと内容の具体性が、このセッションの核心にある。(余談だが、DVQはDario氏本人が名付けたわけではなく、社内の通称がそのまま使われているとのこと)

もう1つは、Slackのノートブックチャンネルだ。Dario氏を含むリーダーたちがそれぞれチャンネルを持ち、気になった記事や考えを自由に投稿する。それに対して社員が意見することが推奨されており、実際にCEOの投稿に対して率直な反対意見が投稿され、ディスカッションになることもある。

また、日本を代表するグローバルブランドであるユニクロ(ファーストリテイリング)においては、理念教育が仕組み化され、頻度や目的別に複数のアプローチでルーティンに組み込まれている。

チームで経営を実行するためには、会社と個人のビジョンがマッチすることが大切だと思います。この一年間で延べ11万人の社員が会社の理念教育を受けています。これまでは創業者の柳井が、こうした理念を伝えてきましたが、現在は、柳井だけでなく、上席執行役員、事業責任者も主体となり、伝える仕組みが各国・各地域で定着しつつあり ます。北米、欧州、グレーターチャイナ、日本、東南アジアなどの各地域で、UMC(Uniqlo Management Candidate)と呼ばれる経営幹部候補の採用をしています。UMCの 採用にはグローバルで年間約150万人の学生から応募が あり、当社の理念に共鳴・共感いただいた約1,000人が、毎年入社しています。入社後は、年2回実施しているFR コンベンション、各地域のローカルコンベンション、毎月の月度朝礼、各部門での理念教育があります。経営理念を 日常の業務で実践するために「ダイレクトセッション」も あり、自分が直面している経営課題に対し、どう行動すべきかを、直接、経営者から学ぶことができます。こうした教育を繰り返し、現場で実践することが重要です。(INTEGRATED REPORT 2024


オープンであること。頻度が高く、目的が明確で、具体的であること。この3つが、トップのビジョンを組織に届け続けるための条件だと言えそうだ。

1-2.合意形成を重視するトップ——決め方そのものを設計する

日本の大企業に多いとされるタイプだ。多様な声を聴き、合意を形成しながら意思決定していく。現場の声が反映されやすく、実行フェーズでの摩擦が少ないという強みがある。

一方で、2つの点に気をつけたい。

1つは、ビジョンの輪郭だ。多くの意見を丁寧に取り込もうとするほど、言葉は丸くなりやすい。どこかで聞いたような、誰も傷つけないビジョンになってしまうことがある。輪郭のあるビジョンをつくるためには、意見を集める設計と同じくらい、何を選び取るかの設計が重要になる。

もう1つは、スピードだ。少し横に逸れるが、AIが処理できるタスクの長さは、7ヶ月ごとに倍増し続けているというスタンフォード大学による研究がある(METR研究、2024年)。変化の速い環境において、丁寧な合意形成のプロセスをいかにスピードと両立させるかは、これからより大きなテーマになるだろう。

大切なのは、合意形成そのものをやめることではなく、決め方を設計することだ。

グローバルで30万人を超える社員を擁するSiemens社のCEO Roland Busch氏は、戦略面の意思決定においては「綺麗に整ったパワーポイントは用意させず、オープンな議論の場を設け、なるべく多くの意見を聞く。一方で、意見を出すことが推奨されていることも含めて、プロセス自体は構造化されている」と紹介している。

戦略を決断する際は、できる限り多くの専門家を巻き込み、会議室でその声に耳を傾けます。あえて完璧なプレゼン資料を求めないこともあります。大切なのは中身だからです。経営陣のあいだでは率直な議論の文化を育み、時には社外のネットワークにも知恵を借りながら判断を下す。誰もが意見を持ち寄り、声を上げられる環境を大切にしていますが、プロセスそのものは構造化されています。より良い決断は、そこから生まれると信じています。


I&COでも、企業のパーパスやビジョンの設計を支援する際には、その方針の内容はもちろんだが「どのステークホルダーをどう巻き込むか」についても、企業の方と話し合うことを大切にしている。

ご支援させていただいたパナソニック コネクトのパーパス・ストーリー策定においては、グローバルのステークホルダーを巻き込んで最終化していくプロセスを取った。事業所数で言えば日本国内(14事業所)よりも海外(23事業所)の方が多く、海外事業も重要視しているためだ。

パーパスを英語にするだけでなく、背景などを説明するための「アワーストーリー(Our Story)」も日本語と英語でつくりました。各地域のトップとマーケティングリーダーをメンバーに、ディスカッションを繰り返したのですが、当初はなかなかまとまりませんでした。アメリカチームが「OK」と言っても、ヨーロッパチームが「NO」と言ったり。同じ英語圏でも文化的背景が違うと、受け取り方が違いました。最終的には全地域が同意するものができ、各地域とも自分たちがつくったパーパス、アワーストーリーとして納得してくれました。(山口有希子CMO)


長く所属してきた役員、今後を担うリーダー候補社員、独自技術を磨いてきたスター社員、M&Aした企業のリーダーなど、実行フェーズに移った時に味方にすべき方は多い。だからこそ、誰が最終決定者なのかを全員が理解した上で、プロセスをシンプルに設計する。ファシリテーションは、トップが担わなくていい。力関係や組織の文脈をよく理解している人間が、意思決定を前に進める役割を担う。そして、最後に決めるのはトップだという共通認識を共有し続ける。この構造が機能すると、多様な声を生かしながら、スピードも確保しやすくなる。

2. 組織の性格

2-1.理念で語る組織——言葉に、数字の骨格を通す

ビジョンや理念を言葉で語ることが得意な組織もある。エモーショナルな言葉は、人の心を動かす強みがある。

さらにそこに数字の骨格が通ると、ビジョンは一段と機能しはじめる。個々人やチームの中で「自分が何をすべきか」の解像度が上がり、行動に結びつきやすくなるのだ。

キリングループの長期経営構想「Innovate 2035!」はその好例だ。ビジョンの中に、具体的な方向性が明示されている。現在、3つの事業領域のうち酒類が利益で1位を占める構造を、酒類・飲料・ヘルスサイエンス・医薬の4領域で同水準にしていくというものだ。2035年というタイムラインとともに具体的な目標数値が示されることで、各事業部が「自分たちは何をすべきか」を考えやすくなる。

理念と数字は、対立するわけではなく、両方あることで実行に移されやすくなる。

2-2. 数字で語る組織——存在意義をエモーショナルに語る

逆のケースもある。金融業など、数字でコミュニケーションすることが文化に根づいた組織だ。KPIが明確で、目標達成に向けた動きが速い。そこにエモーショナルなビジョンが加わると、社員の中に「なぜこの会社で働くのか」という問いへの答えが育ちやすくなる。それが誇りになり、顧客との接点に現れてくる。

少し前だが、Mastercardのケースは示唆に富む。CEOを11年間務めたAjay Banga氏は、在任中に時価総額を約30ドルから350ドル超に成長させた実績を持つ。金融決済の会社として、目標が数字で語られるのは当然とも思えるが、彼が掲げたビジョンは「World Beyond Cash(現金を超えた世界へ)」という、戦略的かつエモーショナルな言葉だった。

当時、世界の決済の約85%は現金で行われていた。その現実を起点に、デジタル決済の可能性を社会に広げていくという大きな物語を、10年以上語り続けた。社員に「Mastercardのビジョンは?」と聞けば、全員が即座に答えられるほどの浸透度だったという。

数字が得意な組織ほど、存在意義をエモーショナルに語ることで相乗効果が生まれていく。

終わりに:自社の「性格」を見極め、最初の一歩を踏み出す

ここまで4つのタイプを見てきたが、整理してみると:
- ビジョンが強いトップなら、届ける仕組みをつくる
- 合意形成型のトップなら、決め方そのものを設計する
- 理念で語る組織なら、数字の力を持たせる
- 数字で語る組織なら、戦略的なストーリーを語る

どのタイプも、それぞれに強みがある。そして現実には、この4つの類型へきれいに分かれないこともあるだろう。トップの意思決定スタイルも組織のコミュニケーション文化も、事業の状態やフェーズによって変化していく可能性がある。重要なのは、現場を知り、自社の特徴を客観的に見極めた上で、次の一手を考えることだ。内側にいると、自分の組織を客観視するのはなかなか難しい。そういうときこそ、外部の目線を借りる価値がある。

企業の目指すものが、心の面でも数字の面でも、組織の隅々に行き渡ったとき、プロダクトやサービスに反映されていく。日々の小さな行動や、顧客との向き合い方に現れていく。その積み重ねが、結果としてブランドになる。

あなたの組織は、どんな性格だろうか。そして今、どんな一歩が踏み出せそうだろうか。


「2026年、強いブランドをつくるために。」の他の記事
- Vol.4: 信頼の循環を「設計する」という発想
- Vol.5: 泡盛が回す「ブランドのフライホイール」

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